ハマサイトクリニックからのお知らせ
女性のエイジングとマイクロバイオームの変化、ラクトバチルス乳酸菌含有素材を用いたフェムケアによるGSM※ 改善効果と 腟マイクロバイオーム変化についての検討を発表 -医学博士 婦人科専門医 吉形玲美医師-
- 第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会※ にて本研究結果を発表。
- 「腟内・腸内細菌叢のクロストーク」に関する研究論文※ が医学誌JWH(Journal of Woman’s Health)
オンライン版Nov.2022に掲載(https://doi.org/10.1089/jwh.2022.0114)。 - 「ラクトバチルス乳酸菌含有素材のフェムケアによるGSM改善効果と腟マイクロバイオーム変化についての検討-ライフステージ別ランダム化群間比較試験-」に関する研究論文※ が医学誌PLOS ONEに近日オンライン公開決定。
リゾートトラスト株式会社(以下、リゾートトラスト)のグループ企業である株式会社アドバンスト・メディカル・ケア(東京都港区、代表取締役社長:古川哲也)が運営支援を行う浜松町ハマサイトクリニック 婦人科医師であり、『40代から始めよう!閉経マネジメント』(講談社)著者でもある、吉形玲美医師による研究「女性のエイジングとマイクロバイオームの変化、ラクトバチルス乳酸菌含有素材を用いたフェムケアによるGSM改善効果と腟マイクロバイオームの変化についての検討」が第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会にて発表されました。
【研究結果サマリー】
☑ エイジングによりマイクロバイオームの状態は変化してゆくが、特に女性ホルモンの変化は腟マイクロバイオームへ大きな影響・変化をもたらすことが明らかとなった。
☑ 未閉経の健常女性と閉経後の健常女性の腟内細菌叢の比較では、閉経後の女性でラクトバチルスが有意に減少し、病原菌を含む割合が多く、両群間に大きな差がみられた。
☑ ラクトバチルス含有素材を用いたフェムケア(ソープ、ジェル、腟ジェル)により、未閉経群および閉経群のいずれにおいても病原菌が減少し、ラクトバチルスの増加がみられ、より良い腟内環境へ変化したことが示唆された。
☑ 閉経後に多い過活動膀胱、特に尿漏れ等の症状もラクトバチルス含有素材を用いたフェムケアの介入により症状が有意に改善された。
※1Genitourinary Syndrome of Menopause の略称で、日本語では「閉経関連尿路生殖器症候群」と訳されます。
※2 講演タイトル:女性のエイジングとマイクロバイオームの変化 腟内・腸内細菌叢のクロストークから見た女性ヘルスケアの展望
※3 論文タイトル:Age-Related Changes, Influencing Factors, and Crosstalk Between Vaginal and Gut Microbiota: A Cross-Sectional Comparative Study of Pre- and Postmenopausal Women.
※4 論文タイトル:Evaluation of the Efficacy of Lactobacillus-Containing Feminine Hygiene Products on Vaginal Microbiome and Genitourinary Symptoms in Pre-and Postmenopausal Women: A Pilot Randomized Controlled Trial.
「マイクロバイオームとは?」
マイクロバイオームとは、人体に共生する細菌やウイルスなどの微生物叢のことで、人間の体内空間を共有している。近年、ゲノム解析の発展から、マイクロバイオームの研究は急速に進歩し、ヒト個々にマイクロバイオームの構成が異なることや、病原菌でありながら宿主である人間に対し疾患を引き起こすことなく、他の微生物集合体と共存していることなどが明らかになっている。他方、体内に存在しているヒトマイクロバイオームは「免疫系の調節」「栄養素分解代謝」「空腹満腹シグナル伝達」などの作用を有し、その数は10~100兆といわれている。人体に存在する代表的なマイクロバイオームと疾患リスクとの関係は以下のようなものが挙げられる。口腔内ではストレプトコッカス属と虫歯、フソバクテリウム属と腸癌、感染性腸炎。バクテロイデス属と消化促進や免疫系のバランス調整。さらに、腟内では、ラクトバチルス属が病原菌・性感染症、早産リスク、婦人科癌リスクの低減に作用するなど。このようにマイクロバイオームはさまざまな面で生体作用や疾患との関連性があり、私たちの健康に密接に関わっている。
「ラクトバチルスとは?」
ラクトバチルス属は乳酸菌の中で、一番大きな属に分類され自然界に広く存在し、発酵食品などに生育している。ラクトバチルスは、分子研究の領域ではCSTⅠからCSTⅤの5つのコミュニティーに分類され、CSTⅣは、ラクトバチルスが最も少ないタイプで、多様性グループといわれている。
腟内のマイクロバイオームは、乳酸の産生源であり、乳酸により腟内は酸性となり自浄作用を保つ。理想的な腟内環境は、腟内マイクロバイオームがラクトバチルス属を主体とした乳酸菌が豊富な状態であり、この状態は性感染症やHPV感染の予防、免疫調整にも影響を及ぼし、婦人科癌のリスクを低減するなど、幅広い健康効果を有することが、これまでの研究で認められている。
-研究会発表内容-
<研究背景>
マイクロバイオームは、ヒトの各臓器において腸内細菌叢を中心に相互作用を有し、各疾患と関連している。腟内のラクトバチルスは腸由来であるといわれており、腟・腸間で同じ細菌種は38%、種の68%は同じ遺伝子型であったという研究報告もあり、腟と腸内で菌のクロストークは密である。さらに、経腟分娩児の腸は、母体の腟マイクロバイオームと強い相関関係があることもわかっている。本研究会では、以下の2つの研究結果について発表。
研究1.腟マイクロバイオームと腸内細菌叢の関連とエイジングによる変化に関する横断的研究結果
(公開論文※3)
・閉経群、未閉経群の腟・腸内細菌叢の組成を比較。閉経・未閉経群の腸内細菌組成は、大きな差異はないが、腟内細菌組成では、未閉経群に対して、閉経群の腟内ラクトバチルスが減少し、病原菌を含む割合が増加。これは、女性ホルモン=エストロゲンの減少によるものと考えられる。
吉形玲美 2022.11.20第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会発表スライドより
・未閉経群において尿中エクオール濃度とラクトバチルス属保有率は、正の相関関係を認めたが、閉経後群において相関関係は見られなかった。(閉経前女性ではエクオール産生能が高いとラクトバチルス属保有割合も高まる結果に)
吉形玲美 2022.11.20第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会発表スライドより
・未閉経群の腟内・腸内ラクトバチルス属の関連性において、ラクトバチルス菌の中でも良い菌とされるCSTⅠとCSTⅢは腟内で競合関係があり、腟・腸の間では共通しているラクトバチルスが多く存在していることから、マイクロバイオームのクロストーク関係が示された。
・閉経後は、エストロゲンの減少により腟内でラクトバチルス産生能は低下するが、今回対象の閉経群において腟内と腸内にラクトバチルス(CSTⅢ)が相関関係にあることがわかった。この結果から、腟・腸間のクロストークによって、閉経群(閉経後)の腟内の主なラクトバチルスを獲得した可能性が示唆された。
・すべての世代で腟内の複数の病原菌と腸内細菌に関連が認められた。特に閉経群では、未閉経群に比べてより多数の病原菌と腸内細菌との関連性がみられた。
研究2.ラクトバチルス乳酸菌含有素材のフェムケアによるGSM改善効果と腟マイクロバイオーム変化の介入研究結果(公開論文※4)
・未閉経群および閉経群のいずれにおいても、ラクトバチルス乳酸菌含有素材を用いたフェムケア4週間の介入後、ラクトバチルスが増加し病原菌は減少した。特に、閉経群の、「ソープ」「クリーム」「腟内ジェル」3つのラクトバチルス含有素材を使用した群では、腟内の病原菌減少は顕著であった。
吉形玲美 2022.11.20第15回抗加齢ウィメンズヘルス研究会発表スライドより
・閉経後に多い頻尿や尿もれ症状を有す過活動膀胱は、その疑いを含め研究対象の約3割にみられ、4週間のラクトバチルス含有素材を用いたフェムケアにより、症状スコアの有意な改善が認められた。
・未閉経群、閉経群ともにフェムケア前にGSM症状を有した対象者において有意な症状改善がみられた。
<研究総括>
これらの研究結果から、マイクロバイオームの腟・腸間のクロストークでは、特に女性ホルモンが減少する閉経後世代への影響が強いことが示された。そして、腸内のラクトバチルスを増やし、病原菌を減らすことは腟内環境が改善する可能性が示唆された。さらに、腟マイクロバイオームやGSM改善に、ラクトバチルス含有素材を用いたフェムケアによる有用性が示唆された。
腟マイクロバイオームが良い状態であることは、女性の性器症状、尿路症状、性交関連症状を含むGSM症状の改善、さらには性病やHPV感染予防、婦人科癌リスクの低減など、女性のQOL向上と幅広い婦人科関連疾患の予防につながる。腸内環境の改善、さらには適切なフェムケアによるセルフケアが重要であることが本研究により示された。
<参考情報:研究方法>
対象者:健常女性69例(27-76歳:平均年齢 47.6±12.6歳)
試験デザイン:ランダム化群間比較試験
試験期間:4週間
使用商品:est’re®(エストール) デリケートソフトウォッシュ、デリケートソフトジェルクリーム、インナージェル ラクトバチルス乳酸菌配合
調査項目(以下参照):
・腟内細菌叢検査
・腸内細菌叢検査
・腟内pH、腟細胞成熟度数
・アンケート調査(不快症状の有無・種類、生活習慣、使用商品の使用感)
・卵巣機能検査(E2、FSH)
・エクオール産生能検査
<医師紹介>
吉形玲美(よしかた・れみ) |
東京女子医科大学医学部卒業。産婦人科医として医療の最前線に立ち、婦人科腫瘍手術等を手掛ける傍ら、女性医療・更年期医療の様々な臨床研究にも数多く携わる。女性予防医療を広めたいという思いから、2010年より浜松町ハマサイトクリニックに院長として着任。現在は同院婦人科専門医として診療のほか、多施設で予防医療研究に従事。更年期、妊活、月経不順など、ゆらぎやすい女性の身体のホルモンマネージメントを得意とする。2022年7月「40代から始めよう!閉経マネジメント」(講談社刊)を 上梓。
<資格>
日本産科婦人科学会専門医、医学博士、臨床研修指導医
日本女性医学学会代議員・同学会認定専門医
日本更年期と加齢のヘルスケア学会理事
日本抗加齢医学学会評議員
日本女性栄養・代謝学会幹事 ほか
<所属学会>
日本産科婦人科学会
日本女性医学学会
日本更年期と加齢のヘルスケア学会
日本抗加齢医学会、日本骨代謝学会、日本骨粗鬆症学会、日本女性心身医学会
日本女性栄養・代謝学会
北米閉経学会
国際閉経学会 ほか